目覚めたら、社長と結婚してました
 いつも焼き立てのパンのいい香りが店内に漂い、幸せな気分になれるのだ。曜日ごとに限定のパンが売られていて、私は金曜日限定のブリオッシュアテットの大ファンだった。

 あれは絶対にこのお店でしか食べられないと確信している。

 卵とバターを存分に使用していて焼き上がった生地は黄金色だ。ふかふかでリッチな見た目に反し、味はシンプルで飽きがない。

 これはレギュラーメニューなのだけれど金曜日だけは、クリームやチーズ、ナッツやレーズンなどが入ったものが販売され、私は特にナッツ入りがお気に入りだ。

 パリジャンという小さなフランスパンタイプのものを使ったサンドイッチをお昼に購入し、限定のブリオッシュアテットを購入するのが私の金曜日のお昼の定番だったりする。

 想像してよだれが出そうになる。早く食べたいな、と思い会社近くの最寄り駅を出て私はパン屋を目指した。道行く人を誘うように、窓際のショーケースにもぎっしりパンが並んでいる。

 ウキウキしながら向かうと、お店の前で足を止めた。

 あれ?

  一瞬、自分の目を疑う。たしかに見えてきたのはパン屋だ。でも並んでいるパンの種類が外から見ても見慣れているものとは全然違っていた。確認すれば店名が変わっている。

 どういうことなのか理解できずにじっと店内を見つめてたたずむ。 

 ……潰れちゃったのかな。

 胸が言い知れぬ不安が胸を覆っていく。そのとき、ふと声をかけられた。
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