目覚めたら、社長と結婚してました
「柚花?」

 振り向くと、高校の同級生だった奈々(なな)が笑顔で手を振ってこちらに駆け寄ってきた。

「久しぶり。お互い、近くで働いているのになかなか会うことがないと思ってたら、このタイミングで会えるなんて」

 製薬会社に営業職として勤めている彼女は、ショートカットの髪をやや明るめの茶色に染め、グレーのジャケットにパステルカラーのインナー、細身のパンツスタイルとカジュアルすぎず仕事仕様だ。

 三月に他の友人も含め集まって以来になる。……記憶をなくしている間に会っていなければ。

「元気? 今度ランチにでもいこうよ」

 笑顔で誘ってくれる奈々に私は調子を取り戻そうと必死になる。

「うん。行こう!」

 極力、明るめの声で返して笑った。そこでなぜか奈々の視線が私から逸れる。

「柚花……あんた、結婚したの? それとも彼氏?」

 彼女の目線の先がなにげなく頭を押さえた私の左手にあった。結婚指輪をつけっぱなしにしていたことを思い出す。

「これは」

「えー、ちょっと。なによ、教えてくれたらよかったのに」

 奈々の声が一段と高くなり、興奮気味に私との距離を一歩縮めてきた。

「ご、ごめん。その、改めて報告しようとは思っていたんだけれど」

「相手の人とはどこで出会ったの? 同じ会社の人? いくつ?」

 自分の会社の社長、とはなんとも言いづらい。出会ったのはバーらしいが、覚えていないし。返答を悩んでいる私に、さらに奈々が質問をかぶせてくる。
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