目覚めたら、社長と結婚してました
「とりあえず送っていく。昼はまだなんだろ? 移転したとこに連れてってやろうか?」

 彼に連れられ向かったのは、会社の駐車場だった。役員専用のフロアは広々として時間も時間だからか、人の気配もまったくない。

「でも、怜二さん仕事が忙しいんじゃ……」

「たいしたことない。年内の大きな仕事は、この前の出張でだいぶ片付いたからな。それにこんなときに妻のことを優先してなにが悪い?」

 さらっと口にされた言葉に頬が熱くなる。ちらり視線を左斜め下に落とすと、回されている彼の左手にはやっぱり指輪がはめられている。

 私は足を止めた。

「柚花?」

 彼が私の名前を呼び、手が離れた。私がぎゅっと唇を噛みしめて、彼をまっすぐに見つめた。

「なにも覚えていないから、私にとって怜二さんは自分の会社の社長っていうくらいの認識しかなくて、知らない人も同然なんです」

 彼は整った顔を歪め、複雑そうに私と向き合ってくれた。

「そうだな、だから」

「だから」

 彼の言葉を遮るように私は力強く続けた。

「知りたいんです、あなたのこと。できれば思い出したくて。私、こんな状態ですけど……迷惑じゃなかったら、そばにいてもいいですか?」

 おそるおそる尋ねる。
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