目覚めたら、社長と結婚してました
 移転先は駅から少し離れたところに位置していた。その分、店構えも大きくなり、カフェスペースまでできている。店内に入り、私は目を輝かせた。

 入ってすぐに焼き立てのパンが並ぶコーナーと今のおススメの商品が出迎えてくれる。

「新作のパンがこんなに! あ、ラズベリー入りのパン・オ・ショコラとか美味しそう」

「買うのは後にしろ。先に飯を食うぞ」

 怜二さんに手を取られ、我に返る。カフェスペースはガラス張りになっていて外にはテラス席が設けられている。暖かくなったらいいかもしれない。

 伯母には一応、連絡を入れておいたのでゆっくりしよう。

 席について私はウキウキしてメニューを見た。ランチメニューはおもにバケットを使ったサンドイッチに日替わりのサラダとスープ、ドリンクがついてくる。

 パンペルデュのセットもある。これはフランス語でフレンチトーストのことだ。散々悩んで、私はサンドイッチのセットにした。中に挟む具は数種類から選べる。

「焼き立てのパンを食べられるなんて幸せ」

「本当に単純だな」

 注文して、なにげなくにやけながらひとり言を口にすると彼から呆れたような反応があった。

「いいでしょ? 些細なことで幸せを感じるんですから」

 ちなみに、フランスでは焼き立てのパンを求め、朝からお店に並ぶのは当たり前だったりする。買い置きなんて言語道断なんだとか。
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