目覚めたら、社長と結婚してました
 両親が住んでいることもあり、フランスには何度か足を運び文化にもそれなりには触れていた。天気のいい日にサンドイッチを買って、エッフェル塔の前の広場で食べるのはパリを訪れた際のもはや定番だ。

 他にもちらほら同じような人がいて、私も倣い寝転んでゆったりとした時間を過ごす。

「世界的ブランドの本店が揃うパリまで行っておいて昼寝か」

「ある意味、究極の贅沢じゃないです? 日本ではなかなかできませんよ。エッフェル塔が舞台になっている本をそこで読むのも好きですね」

「……お前らしいな」

 今度は怜二さんはかすかに笑ってくれた。そこで私は彼に言いそびれていた話を振る。

「そういえば、本ありがとうございました。早速二冊ほど読みましたよ」

「気に入ったか?」

「はい。チョイスが私好みで驚きました。怜二さん、私が本を好きなの知っていたんですね」

『退屈だろうが、活字は我慢しろ』

 病院で彼に声をかけられたのを思い出した。あれは私の本好きなのを知っての発言だったんだ。

「『異端審問官』シリーズの最新作はなかなか衝撃的だっただろ?」

「……そこまでわかります!?」

 確信めいた口調に私は、その場にそぐわない素っ頓狂な声を出した。読んだ本がどれかまでは言っていなかったのに、彼はやけにはっきりと聞いてきたから。

 怜二さんは自分の予想が当たっていたことに対してか、軽く口角を上げた。
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