目覚めたら、社長と結婚してました
「意外とうまいな」

 かじられたサンドイッチが返され、私は慌てて受け取る。よく考えれば、今の私たちはどう考えても不釣り合いだ。

 怜二さんは仕事だったのもあり、ブルーグレーのスリーピースタイプのスーツをきちっと着こなしている。

 背の高い彼にはよく似合っていて、ワックスで整えられた髪型に目を引く顔立ちと相まってそこにいるだけで圧倒的な存在感があった。 さっきから店内の視線を集めていることに本人は気づいているのか、気づいていないのか。

 私はというと、パンを買いに行くだけだと思っていたのでそこまで格好に力も入れていない。紺のニットにオレンジ色のスカート、足元は仕事と兼用できそうなダークブルーのパンプスだ。

 これにベージュのトレンチコートを羽織ってきた。いうまでもなく化粧も最低限。怜二さんとの対比に今更ながら身を縮め、サンドイッチを持つ手に力が入ってしまった。

「……私たちって、傍からはどういう関係に見えるんでしょうか?」

 不安になってつい尋ねると、彼はコーヒーのカップに口をつけて、なんでもないかのように答えた。

「夫婦以外にありえないだろ」

「なんで言い切ります?」

「同じ指輪してるのに、ほかにどう思われるんだよ」

 あ、そっか。そういう物理的なことか。安心したような、寂しいような。……寂しいってどうして思うんだろ。

 自分の気持ちが腑に落ちないまま私は素直な感想を彼に述べる。
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