目覚めたら、社長と結婚してました
 バスルームは様々な設備が装備されミストシャワーやボタンひとつでジェットバスや泡風呂にもできちゃうんだとか。

 これはぜひ試してみたい。バスタブも子どもなら泳げそうなほど広くて、のんびり浸かれそうだ。バスルームの隣にはドレッサールームやランドリースペースもある。

 ここで暮らしていたと実感するどころか、夢のようだ。そんな中、私の心を一番掴んだのは書斎だった。

 壁に沿ってジャンルごとに綺麗に整理されている。真ん中にくすんだ赤色のソファがあり、本を楽しめるようになってた。

「すごい! 素敵な書斎ですね」

 私は棚に並ぶ本に視線を走らせる。

「あ、『グレイス教授』シリーズもある! しかも改定前の翻訳じゃないですが。私、新訳よりも前の方が断然好きで……」

 興奮気味に話して怜二さんの方を見ると、彼はドアのところで壁に背を預け、穏やかに笑っている。

「どうしました?」

「いや、お前が初めてここに来たときと、あまりにも同じような反応をするもんだから」

 彼の指摘に、悪いことをしたわけではないのに居た堪れなくなった。私ってやっぱり怜二さんの言う通り単純なのかもしれない。

「そ、それにしても驚きました。怜二さんがこんなに本好きだったなんて」

「お前も大概だろ」

「そうかもしれませんね。あ、そういう共通点で私たち親しくなったんですか?」

 彼は否定も肯定もしない。でも顔には笑みをたたえたままなので、私は素直に自分の意見で納得した。ひとつ、彼との関係が見えて嬉しくなる。
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