目覚めたら、社長と結婚してました
「ここにある本は好きに読んでかまわない」

「いいんですか?」

 ぱっと顔を明るくさせ、部屋から出る彼に続こうとしたときだ。

「リープリングス!」

 私は視界に映った本のタイトルを思わず口にした。

「このシリーズ、途中までしか持っていなくて……。怜二さん、全部揃えてたんですね」

 先ほどと同じ調子で嬉々として彼に話しかける。ところが彼の表情は打って変わって、複雑そうなどこか痛みを堪えているような顔だった。

「……それも好きに読めばいい」

 ふいっと顔を逸らされ部屋を後にする彼を慌てて追う。

 私、なにかまずいことを言ったのかな?

 聞けばいいのになぜか憚れる。次に案内されたのは私の部屋だった。

 パソコン、デスク、棚に並べられた小物たちはどれも間違いなく私のものだ。敷かれたラグは見覚えはないが、私の好きなオレンジ色でふかふかだ。淡いピンクのソファは新品の香りがする。

 怜二さんの書庫には到底及ばないものの何年も前から使っている四段の棚ふたつには馴染みのあるラインナップでびっしりと本が並んでいた。

 場所は違えど見慣れたものがあることにようやく安心する。それにしても自分のアパートの部屋よりもはるかに立派だと思う。

 そこで私は、肝心のあるものがないことに気づき怜二さんに向き直った。

「ベッドはどこでしょうか?」

「寝室はこっちだ」

 なんの疑問ももたずに彼についていく。そして案内された部屋のドアを開けて私は首をひねった。 
< 70 / 182 >

この作品をシェア

pagetop