目覚めたら、社長と結婚してました
 全体的にモノトーンでまとめられた寝室は、あまり余計なものがない。

 ベッドサイドのテーブルにはここで読めるようにか、いくつかの本がしまえるようになっている。その上に備えつけられた間接照明もお洒落だ。

 ただ部屋には大きなベッドがひとつしかない。

「……ここ、怜二さんの寝室じゃないです?」

「お前の寝室でもあるだろ」

 さも当然のように返され、私は固まった。彼の言葉の意味を理解するのに数秒間要する。

「えっと、じゃあ私たちって……」

 気が動転するのを抑えるように頬を両手で包んだ。

 夫婦なんだから寝室が同じ、もとい同じベッドで寝るなんて、なんら不思議な話じゃない。むしろそこまで考えが回らなかった自分が抜けているのだ。

 勝手に顔が熱くなる。その様子を見てか怜二さんから声がかかった。

「心配しなくても、俺はソファを使うから柚花がここを使えばいい」

「えっ、いや。それはさすがに……」

 だからといって「一緒にベッドを使いましょう」と言えるほど割りきることもできない。

「しょうがないだろ。ベッドはひとつしかない」

 怜二さんいわく、このマンションにはホテルのように利用できる来客専用のゲストルームが別にあるらしい。なので使っていない部屋はあるものの基本的に自分の家に誰かを泊める必要はないんだとか。

 事情を説明されたところですぐに結論が出ないまま、リビングに戻ることになった。
< 71 / 182 >

この作品をシェア

pagetop