目覚めたら、社長と結婚してました
 どうしよう……。

 ゆったりとバスタイムを楽しみ、体も心も満たされてほかほかの状態で出たのも束の間。今は直面する目の前の問題に、頭も心もずっしりと重かった。

 リビングの大きすぎるソファに浅く腰かけ、息を吐くのと共にこうべも垂れる。

 夕飯はマンション内にあるレストランで済ませた。本当は料理したかったけれど、冷蔵庫の中身があまりにもなくて断念したのだ。

 そういえば病院に運ばれた際も、買い物に行くと出かけた途中だったわけだし。料理は好きだからできれば作るようにしたい。

 明日はまず、近隣の散策がてら買い物だ。近いところの目標を決めたところで、現状にまた戸惑う。

 怜二さんは、今バスルームを使っている。すぐに寝ることはないだろうが、彼が出たらいよいよ結論を出さなくてはならない。

 私がここを使う、って言っても怜二さんは絶対に納得してくれないよね。かといって、元の持ち主をソファで寝かせて、私が使うのもなんだか……。

 小さく唸り声をあげて、頭を抱える。本当に困った。

「柚花」

 背後から声がかかり、条件反射で背筋を正す。振り向けばバスルームから出た怜二さんがこちらに歩み寄っていた。

 いつも整えられている彼の髪は無造作に下ろされ、深いグリーンの襟付きパジャマを着ていた。あまりにも新鮮な格好に私は不躾も承知でじっと視線を送る。

「怜二さん、パジャマとか着るんですね」

「スーツで寝ると思ってんのか」

 そう言ってソファの背もたれ越しに後ろに立つ彼を見上げた。
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