目覚めたら、社長と結婚してました
 若くというと語弊があるかな。幼いというか。なんだか可愛いかも。こんな彼の姿を見られるのは、やっぱり自分が特別な感じがする。

 口元を緩めて貴重な怜二さんの姿を目に焼き付けようとすると、彼と視線が交わる。なにげなく怜二さんが私の髪に触れた。

「ちゃんと乾かしたか? お前、いつも髪を乾かす途中で本の続きを読み始めるから」
 
「か、乾かしましたよ」

 なにげなく触れられたことに、自分でも思った以上に動揺する。怜二さんは少し間を空けて私の隣に座ってきた。

「……怜二さん、今日こそ包み隠さず話してもらいますよ」

「なにをだよ」

 私は改めて、隣にいる怜二さんの方に体も向けた。

「私とのことです。出会いから結婚に至るまでちゃんと話してください。はぐらかすのはなしですよ」

「隠しているわけでもないし、はぐらかしてもいない」

「じゃぁ、なんでちゃんと教えてくれないんですか」

 どうしても詰め寄る口調になる私に、怜二さんは神妙な面持ちになった。

「あのな、記憶が飛んだおかげでお前の脳も混乱しているんだ。睡眠を欲するのもそのせいなんだよ。なくした記憶について、事細かく説明するのが最良とは言えない。情報を入れすぎると、脳の処理が追いつかなくて幻覚を見たり、違う記憶を作りだしたりするんだ」

「だからって……」

 理論的に説明されて私は反撃できなくなる。そんな私をなだめるように彼が遠慮がちに髪に指を滑らせてきた。
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