目覚めたら、社長と結婚してました
「自分からしたんだから、俺からしてもいいだろ」

 額同士がくっつく距離で尋ねられ、彼の瞳に映っている自分の姿を見つける。返事はできなかった。拒否することも。

 私の顔色を読んだのか、今度は彼から唇を重ねられる。すぐに離れたけれど目も瞑ることができず、私は硬直したままだった。

 続けて再び至近距離で目が合い、私はぎこちなくも目を閉じる。すると再度唇に柔らかい感触があった。

「嫌か?」

 憂いを帯びた彼の表情に、私は心臓が破裂しそうなのを顔には出さないよう平静を装って答えた。

「二回もしておいて、聞きます?」

「そうだな、でも正確には三回だろ」

 意地悪な笑みを彼が浮かべたので、心の中でこっそり安堵する。怜二さんはこっちの方がいい。だから素直になることができた。

「嫌じゃ、ない、です」

 嘘偽りない気持ちだった。彼のことを思い出せないのに。この気持ちはどこから来るのかわからない。

 怜二さんは私の頬に触れて、キスを再開させた。角度を変えて何度も唇が重ねられ、触れ方にも緩急をつけられる。甘噛みされたり、軽く吸われたりして、リップ音が耳につく。
  
 私はただ受け入れるだけ。さっき自分から彼にしたものは、口づけとよぶほどのものじゃなかったのだと思い知らされる。

「柚花」

 キスの合間に低く落ち着いた彼の声で名前を呼ばれると、胸の奥が熱くなる。窺うようにこちらを見つめる瞳は心配そうで、優しくて。
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