目覚めたら、社長と結婚してました
「いいえ。父は作るの専門ですから。出資者の方がいらっしゃって。ヨーロッパで数々の日本のお店をプロデュースされているすごい方なんですけど……」

「もしかして岡村幸太郎(おかむらこうたろう)さん?」

「島田さん、ご存知なんですか?」

「知ってるよ。あの人、やり手だよね。近藤さんも知ってるさ、ねぇ」

 同意を求める形で島田さんから話を振られ、近藤さんは小さなエスプレッソ専用のカップと砂糖を島田さんに差し出しながら「ああ」と答えた。

「ヨーロッパの数多くの日系店を目にかけて、共同経営者になっているよね。先見の明がある人で、なかなか有名な資産家だ」

「父とほぼ同年代の方ですが、すごい人ですよね。父の作るスイーツの味を買ってくださって。私も何度かお会いしたことがありますが、いつもおおらかで気さくで。……お世話になっています」

 私はカップに口をつける。きちんと温められたミルクとコーヒーとの割合も絶妙で、まさしくカフェオレだ。

 家で飲むときは、いつも淹れたコーヒーにそのまま牛乳を多めにいれるだけなので、味の違いがよくわかる。

 こういうひと手間が大事なんだな。

 ふと隣に視線を移す。今日の怜二さんはいつもに比べると、どこか口数が少ない気がした。

「それ、私の一番のお気に入りで金曜日限定のブリオッシュアテットなんですけど、いかがです?」

「悪くないな」

「素直に美味しいって言ってくださいよ」
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