目覚めたら、社長と結婚してました
 そうはいっても怜二さんはぺろりとパンを食べてしまったので、気に入ってはもらえたようだ。近藤さんが心配そうに私に話しかけてきた。

「柚花ちゃん、余計な気を使わなくてかまわないからね」

「いえいえ。気を使ったわけじゃありませんから。皆さんに食べていただきたかったので嬉しいです」

「いい子だなー。柚花ちゃんは。これで恋人がいないなんて、世の男性は見る目ないな」

 島田さんがわざとらしい口調で乗っかってくる。私は曖昧に笑った。すると近藤さんが軽く頷く。

「毎週こうしてうちに来てくれるのは有難いけど、若いんだからもっと遊んで恋もしっかり楽しんだ方がいいよ。おじさんからのアドバイス」

「近藤さん、若い頃モテてたもんな」

「今も、と言ってくれよ」

「かなりの女泣かせだっただろ。人がいい分、今の怜二以上に性質が悪かったような」

「柚花ちゃんの前でなんてこと言うんだ」

 島田さんとのやりとりに私はつい笑った。

「恋って難しいですね。あ、でも私もルチアに倣って『恋をするためのリスト』を作ってみたんです」

 意気揚々として私は答える。『恋をするためのリスト』というのは作中で恋をしたことのないルチアが、自分がどんな人を好きになるのか書き出したものだ。

 簡単に言えば、好みのタイプを挙げたとでもいうのか。

「へー。柚花ちゃんのリスト内容気になるな」

「たいした内容じゃないですよ。ルチアに似ています。優しそう、誠実、真面目、煙草もギャンブルもしない、浮気もしそうにない。そして……『なにより大事なのは、私と恋をして、すごく愛してくれることです』」

 最後の言い回しはルチアの台詞をまんま拝借した。私も一番大切なことだと思うから。
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