目覚めたら、社長と結婚してました
「くだらないな」

 一つひとつ指を折って告げた内容を、隣の彼はあっさりと一蹴する。私は怒ることもなく、わざとらしく肩をすくめた。

「はいはい。ほら、心配しなくても私の好みのタイプだって怜二さんとは正反対でしょ?」

 最初にここで出会ったときに言われた台詞に返すつもりで告げる。

「俺はギャンブルはやらない」

「そうですか、それは知りませんでした」

 抑揚なく返した。怜二さんは眉をひそめたままなにも言わない。社長に対してかなり砕けた態度かもしれないが、最近のここでの私たちはこんな感じだった。

 とはいえ次に彼から起こされたアクションは、さすがに私も予想していなかった。 

「なんですか?」

 彼の方から伸びてきた手が私の頬に触れた、かと思うとなぜか軽くつねられる。

「なんとなく」

 ぱっと手は離れたものの、私は動揺が隠せない。私は触れられた箇所を覆うよう自分の手を当てた。

「ぼ、暴力反対です。会社に訴えますよ」

「もみ消すから安心しろ」

「堂々と隠蔽発言ですか。はー、こうして下っ端社員の声なんて世に出ることもなく消されるわけですね」

 仰々しくため息をつくと、島田さんが声をあげて笑った。見れば近藤さんも笑みを浮かべている。

「柚花ちゃん、今のはセクハラでいいんじゃない? いい弁護士を紹介しようか。俺が証人になってやる」

「島田さん」

 怜二さんが呆れたように名前を呼んだ。すると島田さんはやはりおかしそうに笑う。
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