目覚めたら、社長と結婚してました
 夜遊びってなにをするんだろう。

 とくに断るという選択肢もなかった私は、彼に付き合うことにした。怜二さんはタクシーに乗り込むと行き先に会社を告げる。

 まさか付き合うって仕事?

 意味がわからないまま会社に着いてタクシーを降りると、彼から自分の車に乗り換える旨が告げられる。たしかに今日は珍しく怜二さんはアルコールを口にしていなかった。

 役員専用の駐車フロアに足を進めながら、今になってプライベート感満載な気がして緊張しはじめる。とはいえ後には引けないし。

「すみません、お邪魔します」

 小さく断りを入れてから、私は助手席に乗り込んだ。すると彼から呆れた声が飛ぶ。

「お前な、誘われたからって誰の車にでも簡単に乗るなよ」

「誘っておいてそんなこと言います?」

 その指摘は効いたのか、言葉を詰まらせた彼に私は続ける。

「大丈夫です、わかっていますよ。怜二さんのことはちゃんと信用していますから。自分の会社の社長っていうのもありますけど、それ以前に人として」

 信用するに値する人物かどうか判断できるくらいは、彼とは十分すぎるほどの時間をあそこのバーで過ごせたと思う。

「なにより怜二さんが私のことをまったく異性として見られないと、初対面で宣言されていますし」

「あれは……」

 ばつが悪そうな顔をする怜二さんに私は笑った。

「いいですよ。気にしてません」

 彼もそれ以上なにも言わず、運転に集中しはじめる。
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