目覚めたら、社長と結婚してました
「たいしたことじゃない。少し仕事で上手くいっていない案件がある。時間をかけてやってきたのに、このまま結果が出せないと今までしてきたことが全部無意味になる」

 怜二さんの横顔からは、感情が読めない。緊迫した感じも悲壮感もなく、声も淡々としたものだった。

 仕事の話を振られたことさえ初めてで、ましてやそれが弱音めいたことでもあって、私はとっさの反応に迷う。
 
 どうして私にそんな話をしてきたのか。彼の意図も読めない。でもそ今はんなことを考えている場合じゃない。

「無意味なものなんてありませんよ」

 とにかくなにか口にしなくては、と私は思ったことを声にする。彼はこちらに視線をわずかに送ってきた。

「父に幼い頃から言われてきたんです。『意味は求めるものではなく作るものだ』って。他の人が意味がないって思っても自分が意味があると思えば、どんなことでも絶対に無駄にならないって」

 怜二さんの直面している状況がどういうものなのかまったく想像もつかないし、彼の求めているような励ましや慰めの言葉も浮かばない。

 私の話していることは見当違いも甚だしいのかも。けれど今の私が彼に言えることは、これだけだ。怜二さんと目を合わせ、私は微笑んで見せた。

「大丈夫ですよ、怜二さん。きっと長い目で見たら、なくしたものにも、失敗だって言われることもちゃんと意味があるんだって思えますから。むしろ怜二さんみたいな人は、そうやって次に活かすことができるからここまで会社を大きくできたんでしょ」

「失敗って……まだ頓挫したわけじゃない」
< 88 / 182 >

この作品をシェア

pagetop