目覚めたら、社長と結婚してました
「なら、ここは踏ん張りどころですね。怜二さんならやれるってところを見せてください。社員として期待していますから」

 生意気な言い方をして、私はもたれていたフェンスから離れると、くるりと踵を返した。

「……なかなか言ってくれるな」

 彼の言葉に私は顔だけそちらに向ける。謝罪の言葉を口にしようかと思ったが、なぜか怜二さんは笑っていた。

「そう言われたら、意地でも成功させるしかないだろ」

 どこかすっきりしたような面持ちで彼は持っていた携帯灰皿に煙草を押し込めた。逆に私は自分の発言が上から目線だったんじゃないかと今になって不安になる。

「あの、気が利くことが言えずにごめんなさい」

 顔を強張らせたままでいると、怜二さんがなにも言わずにゆっくりと近づいてくる。鮮やかな夜景を背に彼の姿ははっきりと目に映った。

 つい見つめたままでいると、そのまま正面から彼にすっぽりと抱きしめられる。

「え?」

「ちょっとおとなしくしてろ」

 腕を回され、私はようやく抵抗を試みる。

「ここ外ですよ。離してください」

「外じゃなかったら、いいのか?」

「そういうことじゃなくてですね……」

 されていることを意識すると、心臓が強く打ちつけ思考回路が安定しない。お世辞にもここは怜二さんが指摘したように快適とはいえず、生温い空気が辺りを包んでいた。

 しかし、そんなことはまったく気にならなかった。
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