目覚めたら、社長と結婚してました
 ヒーローとヒロインの王道カップルを応援している私としては、胸が苦しくなる展開になりそうだ。

 マーティンの気持ちはよく理解できない。相手が大好きな人や恋人ならまだしも、気持ちがそこまでない人と肌を重ねてなにがいいのか。怜二さんだって……。

「そんなに癒されるものですかね?」

「なら試してみるか?」

 思わぬ返事に私は、耳を疑った。怜二さんは意地悪そうな笑みを浮かべ、私の腰に回していた腕の力を強める。

 彼の言葉を必死で咀嚼し、自分のなにげない呟きと合わせて意味を理解した。

「え、いや。今のはひとり言というか、ふとした疑問を声にしただけというか。他意はないんです」

「よく言う。誘ってくれたんだろ」

「違います! わかってて、そういうこと言わないでください!」

「癒しを求めるのは悪いことじゃないんだろ?」

「求める相手を間違えてますって!」

 懸命に否定するも、彼は私の頬に手を伸ばしてきた。私の髪をそっとすくい、耳にかける。

 耳を滑った怜二さんの長い指の感触に、全神経が集中して心臓が止まりそうになった。

「せっかく開けたんだろ。なんかつけとけよ」

 いつもの調子で指摘され、話題が切り替わったことに少しだけ安堵する。彼が言ってるのはピアスのことだ。

 ピアス穴は先月、耳鼻科で無事に開けたので、ずっと穴を安定させるファーストピアスと呼ばれるものをしていた。
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