目覚めたら、社長と結婚してました
「よく眠れたか?」

 質問に私は首を縦に振る。たくさん夢を見た気はするけれど疲労感は残っていない

「はい。でも、怜二さんを余計に疲れさせてしまって……」

 尻すぼみになって、もう一度謝罪の言葉を口にしようとする。しかしそれは彼が私の方に体を寄せ、こつんとおでこを重ねてきたので阻まれてしまった。

「気にしなくていい。それに十分に癒された」

 本気なのか、からかっているのか。どちらにしろ言葉と伝わってくる温もりに私の心はかき乱されていた。そこでなぜか私の口が勝手に滑る。

「怜二さん、煙草吸わないんですか?」

 私の発言に怜二さんは驚いた表情を見せる。もちろん言い放った私自身もだ。彼が煙草を吸っている姿など見たことがないのに。どこからそんな言葉が出たのか。

 戸惑う私に、怜二さんは私の髪先を掬い軽く弄る。

「誰かさんが、煙草くさいって怒るからな」

「え、私、そんなこと言ったんですか!?」

 その問いかけには答えてもらえず、含みのある笑みを浮かべられる。

「ほら、起きるぞ。昨日のパンを食うんだろ?」

「あ、はい」

 話題を変えられ、私も素直に身支度することにした。

 設備の整ったキッチンで格闘し、コーヒーを淹れてパンを温める。少し手間取ったが、これはもう慣れの問題だ。

 怜二さんはきっちりと着替えてダイニングに現れた。スーツを着た彼はすっかり社長の顔で、新聞に目を走らせている姿はやはり様になる。
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