目覚めたら、社長と結婚してました
 こうしてふたりで朝食をとることになった。私は馴染みのあるクロワッサンの味に顔を綻ばせる。焼き立てには劣るものの、オーブンの質がいいからか十分に美味しい。

「出かけるときは、一応行き先を告げて行けよ」

 コーヒーのカップに口をつけていると怜二さんに声をかけられる。

「はい。あ、早速ですけど今日、買い物に行きたいんです」

「わかった。午後三時以降なら付き合ってやる」

 どうやら一度帰ってきて一緒に行ってくれるらしい。申し訳なく思うものの、ここは素直に甘えておこう。

「柚花」

 そこで怜二さんがなにか言いたそうな顔で私の名前を呼んだので、私は彼と目を合わせた。

「買い物行くなら、あれ作れよ」

「あれ?」

 なんのことか理解できずに尋ね返す。

「ほら、お前が得意料理だって言ってたトマトと豆が入ってる……」

 料理名が浮かばないのか怜二さんは歯切れ悪く説明する。でも、それで私はピンときた。

「ああ、カスレですか」

「そう、そんな名前だったな」

 カスレはフランス南西部の定番料理だ。白インゲン豆とソーセージ、肉類などを煮込んだもので母の得意料理でもあり私にレシピが引き継がれた。

 本場では鴨肉を使ったりするのだが、私はいつもウインナーや鶏もも肉ですませ、ちょっと奮発するときはラム肉を使ったりする。

 カスレのレシピは何度も作っているのでもちろん覚えているし、私も久々に食べたくなってきた。
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