目覚めたら、社長と結婚してました
『彼の好きなものを作って仲直りするために、これから買い物に行くんだって話していたから』

 敏子さんの台詞を思い出し、私ははっとする。もしかして私が怜二さんに作ろうとしていたのは、カスレだったのかな?

 思い出せたわけじゃない。それでも合点がいきホッとした気持ちになって私は笑顔になった。

「やけに嬉しそうだな」

「はい。美味しいの作りますね」

 売ってたら鴨肉を買って今日は本格的に作ってみようかな。でもそのためには少し遠出しないと。私は心を弾ませてあれこれ思い巡らせた。

 そして朝食を済ませ片づけをしているところで、怜二さんが家を出るみたいなので、見送るために玄関に足を運ぶ。

「あの、仕事が忙しいみたいなら無理はしないでくださいね」

「わかった。一度連絡する」

 本来なら私も出社するはずなので、変な気分だ。今日が平日だから尚更。

 靴を履き終えた怜二さんは、どういうわけか私の方にくるりと向き直り、こちらをじっと見下ろしてきた。

 なんだろう?と思って首を傾げながらも目を合わせると、不意に唇が重ねられる。すぐに離れたものの私は動揺が隠せなかった。

「キスはいいんだろ?」

 真剣な面持ちで尋ねられ、瞬きを繰り返しぎこちなく頷く。すると頬に手を添えられ、再度顔を近づけられたので私は静かに瞳を閉じた。

 予想通り唇に柔らかい感触があって、私の心臓は加速する。思わず呼吸を止めてしまい、長いキスに息が苦しくなる。

「勝手にひとりでどこかに行くなよ」

 口づけが終わり、至近距離で呟かれた言葉に私は眉を寄せた。
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