Some Day ~夢に向かって~
「そろそろ着くから。」


先導するように少し先を進むようになってた先輩が、私を振り返る。


ちょっと待って・・・。住宅街の中でも、ひときわ目立つ大きな家が現れる。すごいなぁ、と思って見ていると


「ここだから。」


なんて言うと、先輩はその家の門を開けて中に入って行く。えっ・・・?


「どうぞ。」


何事もないかのように、先輩は笑顔で私を招き入れてくれるけど、平凡な一般庶民の家に生まれ育った私には、ここに足を踏み入れるだけで、既にプレッシャ-だ。


だいたい、門から玄関まで、こんなに距離のある家、私、ドラマでくらいしか見たことないよ。ここに住んでいる人って、どういう人達なの・・・?


私の戸惑いなんて、全く気が付かないかのように、先輩はスタスタ歩くと扉を開けた。


「ただいま。」


「ああ、お帰りなさい。徹さん。」


たまたま玄関に居たって感じのおじさんが、出迎えてくれた。


「珍しいですね、こんな時間に。」


「ええ、社長が何か取りに戻りたいとおっしゃって。」


「えっ?親父、いるんですか?」


先輩の表情がたちまち苦くなる。あっ、そうか、先輩はお父さんと仲良くないって言ってたっけ・・・。


「あの・・・。」


それはともかく、居場所のなさを感じた私は、先輩に声を掛ける。


「ああ、ごめん。父親の運転手をして下さってる椎名さん。」


「初めまして。先輩の同級生の水木悠です。」


先輩の同級生って、変な表現だけどね。ペコリと頭を下げる私に椎名さんは柔和な笑顔を向けてくれる。


「いや、私のような者にご丁寧に。坊ちゃん・・・いや徹さんが女性を連れて来られるなんて、珍しい。」


「彼女なんです。」


先輩がサラッと言うから、私は思わず赤面してしまう。


「そうですか、こんな可愛い彼女さんを連れて来られたら、社長も喜ばれますよ。」


「ありがとうございます。じゃ、上がってよ。」


「でも・・・。」


私は躊躇する、だって運転手の人には挨拶したけど、肝心の先輩のご両親にご挨拶してないのに、勝手にズカズカ上がり込むなんて・・・。


「いいよ、気にしなくて。あとで紹介するからさ。」


そう言われても・・・私がやっぱり二の足を踏んでいると、二階の方から声がしたと思うと、その声が近づいて来る。


やがて、その声の主である人達が私の視界に入って来ると、私の身体の中に緊張が走った。
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