Some Day ~夢に向かって~
降りて来たのは、先輩のご両親と恐らくお父さんの秘書と思われる若い男性。


お父さんと秘書さんは何やら話をしていて、お母さんが私達に気付いた。


「あら、お帰りなさい。」


「ただいま。母さん、水木悠さん、連れて来た。」


「水木です、初めまして。今日はお邪魔させていただきます。」


私は夢中で挨拶するけど


「いらっしゃい。」


とお母さんは素っ気なく言うと、後は私の方を見ようともしない。私が少し凹んでいると


「水木さん、かな?」


とお父さんが向こうから声を掛けて下さった。


「は、はい。お邪魔します」


慌てて頭を下げると、お父さんはそれまでの謹厳そうな表情をほころばせた。


「いらっしゃい。ウチのドラ息子がどんな娘さんを連れて来るのかと思ったら、こんな綺麗なお嬢さんとはな。正直驚いたよ。」


お世辞とはわかっていても、面と向かってこんなことを言われて、私は赤面する。


「急な会議が入って、うっかり書類をこちらに置いたままだったんで、やむなく取りに戻ったんだが、思わぬ幸運だったな。ゆっくりして行きなさい。」


「ありがとうございます。」


「今日は遅くなる、後はよろしくな。」


「わかりました。」


お母さんにそう声を掛けると、お父さんは秘書さんを引き連れて出て行く。先導するために扉を開けた椎名さんが、出る前に私にニコッと微笑みかけてくれたのが嬉しかった。


「さぁ、上がってよ。」


「はい、お邪魔します。」


改めて、先輩に声を掛けられて、私は上がらせてもらったけど、そんな私に目もくれずに歩き出したお母さんの後ろ姿と、お父さんがいる間、ずっと苦い表情で、そっぽを向いていた先輩の様子が、ひどく印象に残った・・・。
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