Some Day ~夢に向かって~
「俺の母校の大学が、名古屋の方にあるっていうのは、知ってるな?」


「はい。」


「実は、そこがお前に来ないかと言って来てる。」


「えっ?」


「よかったら、推薦と言う形で、入学させると言って来てるんだ。」


俺には監督が言ってることが理解出来なかった。


「どういうことですか?」


俺はもはや野球選手として、特待生のような扱いを受けられる存在ではないし、学力だってご覧の通りだ。


そんな、なんの取り柄もない高校生を、一般入試も終わったこの時期に、推薦扱いで入学させてくれるというのは、どういう風の吹き回しなのか、理解しろという方が無理だろう。それとも、親父から多額の寄付金でもせしめようとしてるのか・・・。


「俺の出た学部は、現役スポ-ツ選手の活動拠点となっていると同時に、スポ-ツ指導者を多く輩出している。俺もそこで学んで、今に至っているわけだが、お前の存在に興味があると言ってるんだ。」


「全くわかりません・・・。」


「つまりこうだ。お前ほどの実績を持った選手なら、当然そのまま現役を続けて、上のレベルの世界にチャレンジしていくのが普通だ。だが、不幸にして、お前はケガでそれが叶わなくなった。しかしお前が残した高校野球での実績は、過去の誰と比較しても、突出している。そういう選手が、理由はともあれ、学生の時期から自らのキャリアアップではなく、指導者を目指したとしたら、これは少なくとも日本では初めてのケ-スになるだろう。俺の母校はそこに興味を持った。」


「でも俺は・・・。」


「まぁ最後まで話を聞け。この話は別に今、急に出て来た話じゃない、とっくの昔に俺のところに話はあった。だが俺は、山上先生とも相談して、あえてお前には伝えなかった。お前が新聞記者を目指していると聞いたからだ。そして、さっき俺は改めて、確認させてもらった。意志は変わらないのかと。変わらない、それがお前の答えだった。」


「・・・。」


「だから、俺は無理強いするつもりは全くない。だが、これだけは伝えておく。俺は今朝、大学に確認した。『こういう状況になりましたが、もし本人が、お世話になりたいと言ったら、先日の話はまだ有効でしょうか』と。返事は、『本人の意欲があるなら、是非お待ちしている』だった。」


「・・・。」


「ウチには指導者の道を目指しているお前の身近な先輩が2人もいる、それも同じピッチャ-だ。それでお前が遠慮した可能性があるんじゃないかと思ってるんだが。」


図星だった、もう投げられないとわかった時、まず俺の頭に浮かんだのは、なら指導者を目指そうという思いだった。だけど次郎さんと、もう1人、俺が入学した当時のエ-スだった星勝さんが、やはり指導者を目指している。


2人の、それもポジションが同じ先輩の邪魔をしたくないという気持ちは確かにあった。ただ、それよりもっと大きな理由があって、俺は新聞記者を目指したんだけど。


「とにかく少し考えてみろ、俺は悪い話じゃないと思うぞ。」


そう言うと、監督は俺の肩をポンと1つ叩いた。
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