Some Day ~夢に向かって~
あまりにも予期せぬ内容の話に、俺は半ば茫然としたまま、監督室を後にした。


「徹くん。」


すると聞こえて来た俺を呼ぶ愛しい人の声。そうだ、悠を待たせてたんだ。


「悠。」


笑顔を浮かべて、パタパタと駆け寄って来る悠の姿の可愛さに、俺はようやく我に返った。


「何だったの?監督さんのお話。」


「いや、監督もいろいろ心配してくれてるみたいでさ、申し訳ない話だよ。待たせてゴメンな、さっ行こう。」


本当なら、今の監督からの話は当然、悠にも話さなければならない。だけど、当人である俺がまだ、全然頭の整理が出来てない段階では・・・。


「うん、行こう。」


そんな俺の胸の内に、当然気づかない悠は、嬉しそうに頷くと、俺の手をそっと取った。


(悠・・・。)


付き合いだして3ヵ月近く経つ俺達だけど、悠の方から、手を繋いで来てくれたのは初めてだった。彼女の顔を見ると、照れ臭そうに正面を向いて、目を合わそうともしないけど、その表情は嬉しそうだった。


思えば初詣以来、ほとんど会えなかった俺達。それは仕方ないことなんだけど、でも寂しかったのは、確か。悠だって、自分が早々に合格したのに、俺が決まんないばっかりに、寂しい思いを我慢をしていたはずだ。きっとこの日を待ちに待っていてくれたんだろう。


その想いがこもった、今の彼女の行動。悠の俺への気持ちが、ヒシヒシと伝わって来て、俺の心は熱くなる。


せっかく悠から繋いでくれた手を、一旦離して、俺達は自転車で駅前のショッピングモールに移動する。通算3回目、付き合ってからは初めての一緒の食事は、悠の希望で、ここの中にあるイタリアンレストランに決まった。


「何にしようかな?」


そんなことを言いながら、メニュ-を眺めている悠はホントに楽しそうで


「ねぇ、徹くん。このランチのパスタとピザ、1つずつ取って、半分こ、しようよ。」


「そうだな、そうしよう。」


俺の同意が得られると、また嬉しそうに笑う。そして


「悠、合格おめでとう。」


「ありがとう、徹くん。」


やって来た食事を前に俺達はジンジャーエールとオレンジジュースで乾杯する。


「取ってあげる。」


「ありがとう。」


俺の為に、料理を取り分けてくれる君。


「おいしい。」


そう言って、飛び切りの笑顔を俺に向けてくれる君。


そしてレストランを出て


「徹くん、とってもおいしかったです。ごちそうさまでした。」


とキチンとお礼を言ってくれる君。その1つ1つの仕草が俺をますます、君の虜にして行く。


「今日はまだいいよね?」


「もちろん。」


この後、また手を繋いだ俺達は、モ-ルの中を一緒に回る。ただ一緒にぶらぶらと店を回ってるだけなのに、君はどうしてそんなに楽しそうなんだい?そしてそんな君を見つめている俺は、何でこんなに幸せなんだろう。


そして、君が欲しそうにしていたイヤリング。名残惜しそうに、君はその場を離れたけど、俺が素早く価格をチェックすると、何とか手が届く。俺は君の目を盗んで、それを買い求めて、包装してもらった。


俺がそれを君に差し出せたのは、夕方になり、名残惜しかったけど、君を家まで送った別れ際だった。


「徹くん・・・。」


驚く君に、俺は少々カッコ付けて言った。


「改めて大学合格おめでとう。よかったら、着けてくれ。悠がこれを着けて、キャンパスに通ってくれたら、こんな嬉しいことはないから。」


「徹くん、ありがとう!」


君は涙を浮かべると、そう言って、俺の胸に飛び込んできてくれた。


「とっても嬉しい。大事にするからね。」


そう言って甘えて来る君が、とても愛しくて、可愛くて、俺はこのままどこかへ連れ去ってしまいたいと思う。


(きっと似合うだろうな、だけど俺はこのイヤリングを付けて、キャンパスに通うお前の姿を見られないかもしれない・・・。)


悠を抱きしめながら、だけど俺の胸はチクリと痛んだ。
< 131 / 178 >

この作品をシェア

pagetop