Some Day ~夢に向かって~
「まだ、時間いいか?」


「はい。」


遊園地を出た後、徹くんのその言葉に誘われて、私達は赤レンガ倉庫にやって来た。その幻想的なライトアップに私は目を奪われる。


そして、私の手には、徹くんが買ってくれた遊園地のオリジナルキャラクターのぬいぐるみがある。今日も何から何まで、徹くんに出してもらってしまった。そんなの当たり前だって、徹くんは言うけど、やっぱり申し訳ない。今度、ちゃんとお礼しなくっちゃ。


「ここもキレイだね。」


「ああ。」


しばし見とれていた私の耳に、徹くんの呼ぶ声が聞こえた。


「悠。」


「えっ?」


振り向いた私の目に入った徹くんの表情はなぜか、硬かった。


「話があるんだ。」


「どうしたの?」


思わず不安になって、私は尋ねる。


「実は・・・大学に行けることになった。」


「えっ?」


「ある大学が・・・居郷監督の母校なんだけど、誘ってくれて、その大学に推薦という形で入れてもらえることになったんだ。」


「本当?よかったじゃない、おめでとう。」


私はビックリしたけど、すぐに祝福する。だけど、徹くんの表情はなんで、そんなに硬いんだろう?


「ありがとう、だけど・・・。」


「だけど?」


「2つ問題がある。俺はその大学に、スポ-ツ、まあ俺の場合は野球ということになるけど、その指導者になる為の勉強をする学生として、推薦入学させてもらう。つまり、新聞記者になる夢は、諦めなきゃならないということになる。そしてもう1つの問題は・・・その大学が名古屋にあるって言うこと。」


「名古屋・・・。」


「つまり、4月から俺達は、離れ離れになってしまうんだ。」


徹くんは、そう言うと私を見つめた。


「本当は、さっき観覧車の中でずっと一緒にいようなって、言いそうになった。でも、それじゃウソつきになっちゃうから。悠、スマン。」


そう言って私に頭を下げる徹くん。


「徹くんは、それでいいの?」


「えっ?」


「新聞記者の夢、諦めること。」


(えっ?そっちの方かよ。)


「悩んだよ。だけど、指導者に興味がなかったわけじゃないし、野球に携われると言う意味じゃ、むしろそっちの方がより深く携われるのかもしれない。それに、今の俺を、そんな形で評価してもらえて、素直に嬉しかった。だから、行ってみたいと思う。」


そう言うと徹くんは、また私を見つめる。そんな徹くんに私は、うなずいた。


「じゃ、問題ないじゃん。」


「悠・・・。」


「徹くんが、自分の進みたい道に進めるなら、こんな素敵なことはないじゃない。」


私は心からそう言った。


「それに、名古屋なんて、そんな遠くないよ。」


「えっ?」


「神奈川県の隣の隣でしょ?私が休みに会いに行くよ。中間地点で会うことも出来るし。」


「・・・。」


複雑そうな表情の徹くんの横で、私は呑気に明るく言った。
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