Some Day ~夢に向かって~
そして、私達は2人になった。グラウンドにも、もう人影はなく、別れを惜しんでいた人々も、1人また1人とこの思い出深い学び舎を去って行く。


私達は今日、OB、OGとなり、明協高校の歴史の1ページになった。代わりに希望に胸を膨らませたまだ見ぬ後輩達を迎えて、間もなく新しい1年が始まる。


「悠。」


「はい。」


「卒業おめでとう。」


「ありがとう。徹くんも卒業おめでとうございます。」


「ありがとう、1年余計にかかっちまったけど。」


照れ笑いを浮かべる徹くん。


「それにしても、やっぱりここにはいろんな思い出があるな。」


グラウンドの方をじっと見つめながら、徹くんはつぶやく。


「そうだね。」


マウンドから、目の醒めるような快速球を投げ込んでいた徹くんの姿は今も目に焼き付いている。


「3年の春の選抜が終わったあと、医者に言われたんだ。『これ以上投げ続けたら、お前終わるぞ』って。つまりドクターストップって奴さ。」


「そうだったの?」


全く知らなかった、驚いた私は徹くんの顔を見つめる。


「監督とゴーさんにだけは報告したけど、あとは固く口止めして、親にも言わず悩んだ。もちろん投げられなくなるのは、嫌だった。だけど最後の夏を仲間達と戦えなくなるのは、もっと嫌だった。」


「・・・。」


「そして、あの結末を迎えた。全く後悔してないとは言えねぇけど、あれでよかったんだと思ってる。」


「徹くん・・・。」


「あの時、止めたとして、結局ブッ壊れるのが、少々先に延びただけだったような気もするし、何より、あのまま普通に卒業してたら、間違いなく俺は、お前の存在に気付けなかった。」


そう言うと徹くんは、私を見つめる。


「考えただけでゾッとするよ。」


「徹くん。」


「悠、待っててくれて、本当にありがとう。感謝してる、心から。」


その言葉を聞いた次の瞬間、私は徹くんの胸に飛び込んだ。


「ううん、徹くんの方こそ、私を見つけてくれてありがとう。本当にありがとう・・・。」


私達はお互いを鼓動をじっと、確かめ合っていた。
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