Some Day ~夢に向かって~
2学期が始まってから、早いもので1週間が過ぎた。

先輩が現れて、なんとなくバタついていたウチのクラスもようやく落ち着きを取り戻してきた。

もっとも先輩の周りに、相変わらずまとわりついてる女子がいることは変わりはないんだけど・・・。

中にはモーションを掛けてる子もいたけど、先輩は迷惑がるでもなく、と言ってデレデレするでもなく、ごく自然に接していて、そんな先輩に、正直ホッとしている自分がいる。

「それにしても、まいったよなぁ。」

「どうしたんですか?」

そして今日も、私は先輩と一緒に予備校からの帰宅の途についている。あれから、先輩は予備校からの帰り道、いつも私を送ってくれてる。

わざわざ自転車を押して、遠回りしてくれる先輩に申し訳ないからと言ったんだけど

「こんな時間に女の子を1人で帰らせることなんか出来ないよ。それに学校じゃあんまり話も出来ないから、ちょうどいい。」

なんて言ってくれるから、結局お言葉に甘えてしまっている。週に4回、私にとっては幸せな時間になっている。

話は逸れてしまったが、先輩の言葉に戻ろう。

「俺なんか、野球止めちゃったら、何の取り柄も魅力もねぇと思うんだけどさ。」

「えっ?」

突然何を言い出すのか、びっくりして先輩を見ると

「なんで、あの子達はいつまでも俺の周りをうろついてるんだろう?」

絶句する私を不思議そうに眺める先輩。

「なんか、俺の顔に付いてる?」

「いえ、別に。」

慌てて視線を逸らす私。

(この人、本気で言ってるのかな?)

だとしたら、先輩の未来の彼女さんは相当苦労するだろうなと、私は心の中で深く同情した。

「ところでさ。」

「はい。」

「水木は彼氏とかいないの?」

「えっ?」

突然の質問に驚く私。

「い、いません。」

「じゃ、好きな奴とかいるの?」

「!」

今日の先輩はなんでさっきから、心臓に悪いことばっかり、言うんだろう。

今、横にいますとは、さすがに言えないから、懸命に言葉を探す私。

「い、今は特に。受験も控えてますし。」

「そっか、そうだよな。」

これじゃ心臓が持たない、家が見えて来て、私はホッとした。

「せ、先輩、もう大丈夫です。ありがとうございました。」

「そう、じゃ。」

と言って行きかけた先輩はフッと足を止めた。

「あの、迷惑じゃなかったらさ、ケー番とメアド教えてくんない?」

「えっ?」

驚いて固まってしまった私を見て、先輩は慌てて言う。

「いや、なんか聞きたいこととかあった時に、便利かなと思ったからさ。嫌ならいいんだよ、ゴメン。」

「いえ、嫌だなんてとんでもありません。」

今度は私が慌てて、携帯を差し出す。先輩はそれを受け取ると、すぐに赤外線操作をしてくれた。

「ありがとう。これからは受験勉強に支障がない程度にメ-ルするから無視するなよ。」

「は、はい・・・。」

「じゃ、また明日。おやすみ。」

「おやすみなさい。」

サッと手を挙げると、颯爽と走り去る先輩を私は半ば茫然と見送る。

(先輩とケ-番、交換しちゃった・・・。)

一方

(そっか、彼氏いないのか。)

心弾ませながら、ペダルを漕ぐ俺の足は軽快だった。
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