Some Day ~夢に向かって~
「お兄ちゃん、来たよ~!」


聞こえて来たあの声は・・・


(ゆ、唯ちゃんだ・・・。)


忘れようにも忘れられないあの声、あの日の悪夢のような出来事。思わず、私は調理場に逃げ込もうとして、由夏に捕まる。


「なんで悠が逃げるのよ。」


「だって・・・。」


確かにそうなのだが、でも正直私、唯ちゃん苦手・・・。


そんな逃げ腰の私のことなんか、お構いなしに友達数人と共に教室に入ろうとした唯ちゃんの前に立ちはだかる人影。


「唯、何しに来た。」


聞いたこともないような先輩の厳しい声音に、私はドキリとして、その後ろ姿を見つめてしまう。


「何しに来たって、お兄ちゃんのクラスのお客さんに来てあげたんじゃん。」


「お前、俺との約束をちゃんと果たしたのか?」


「えっ?・・・」


後ろからでわからないけど、見る見るうちに表情が曇って、うつむく唯ちゃんの様子から、今先輩がどんな表情なのか、容易に想像できてしまう。


「約束も果たさないで、よくノコノコとここに来られたな。」


「ちょ、ちょっと白鳥さん。」


「お前は黙ってろ、これは俺達兄妹の問題だ。」


慌ててとりなそうとする沖田くんも一喝すると、また先輩は唯ちゃんに視線を向ける。


「お前の軽率で、非常識な行動で、水木や沖田を始めとしたこのクラスのみんなにどれだけの迷惑をかけたと思ってるんだ。」


「・・・。」


「お前ももう子供じゃないんだから、自分でキチンとけじめを付けろ。俺はそう言ったはずだ。なのにお前はその俺の言葉をちゃんと受け止めることなく、今日まで来た。俺は恥ずかしい、情けないよ。」


私達はもちろん、お客さん達も、いったい何事かとポカンと先輩達を見つめるのみ。そんな周囲を気にすることなく、先輩は言う。


「お前を、この模擬店の客として迎えることは出来ない。例えみんながいいと言ってくれたとしても、俺が許さない。帰ってくれ。」


最後にそう決めつけられた唯ちゃんは、潤んだ瞳で、先輩を一瞬キッとにらむように見つめると、クルリと背を向けて走り出した。


「唯ちゃん!」


その後を追って、走り出す沖田くん。そんな2人を尻目に、私達の方を向き直った先輩は


「すみません、みっともないところをお見せしてしまって。さっ、召し上がって下さい。」


思わず見惚れるような営業スマイルを見せると、深々と一礼した。
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