Some Day ~夢に向かって~
「先輩カッコよかったね、やっぱり。」
教室を出た後、興奮気味の由夏の横で、私はやっぱり言葉少なだ。
「うん・・・。」
「ねぇ何なの、悠。まさか冷めちゃったの?」
「ううん、そんなことないよ。」
「じゃぁ、ホントに何なの?おかしいよ、今日の悠は。」
私の先輩に対する思いを知り過ぎるほど知っている由夏は、不思議そうに聞いてくる。
「だってさ今日、初めてあんな至近距離で先輩見たんだよ。もうカッコよ過ぎて、見とれちゃったよ。とても私なんかの手が届くような人じゃない。」
白鳥徹先輩は沖田くんの前の明協のエ-ス。1年の時からマウンドに立ち、それまでは県大会でも良くてベスト4止まりだった明協を初めて甲子園に導いたんだ。そればかりか、明協はなんとその夏の大会で全国制覇を成し遂げる。
以降ウチの高校は、5季連続の甲子園出場を果たしたばかりか、夏の大会と春の選抜で2度ずつの優勝、唯一優勝を逃した2年生の夏の大会もベスト8進出と、まさに高校球界の王者として君臨することになった。
その中心にいた白鳥先輩は、4番でキャプテンだった松本省吾先輩と2人で、私達女子生徒の人気を二分してると言っても決して過言じゃなかった。
そんな白鳥先輩に私はずっと憧れてきた。明協を受験したのも、それが全ての理由ではなかったけど、先輩と同じ学校に通いたかったからだ。
由夏と仲良くなったのも、野球がきっかけ。白鳥先輩派の私に対して、由夏は松本先輩派だったから、ライバル(?)じゃなかったのもよかったみたい。
だけど私達はずっと、遠くから先輩達に憧れ、応援することしか出来なかった。学年も違うし、接点なんかないし、告白するなんてとんでもない。
逆に先輩達が目を付けてくれるくらいの容姿でも持ってればよかったけど、そんなの、ないものねだり。
あっ、由夏は美人だし、スタイルもいいし、性格もいいから、何の取り柄もない私よりはチャンスはあったはずなんだけど、松本先輩には木本みどり先輩という才色兼備の名マネージャーさんがピッタリ傍にいて、由夏達に付け入るスキなんて全然なかったんだ、残念。
一方の白鳥先輩には彼女はいなかった、らしい。少なくても校内の女子の中には、そのような存在は見当たらなかった。だから私にはとても出来なかったけど、先輩にアタックした子はそれこそ何人もいた。
でも誰1人、先輩のハ-トを射止めることは出来なかった。一世一代の勇気を振り絞って、告白する女の子達に対して、先輩はいつも、マウンドにいる時とは別人のような柔和な表情で、しかし
「ありがとう、だけど今は誰とも付き合うつもりないんだ。ごめんね。」
という言葉で、決して彼女達の慕いを受け入れることはなかったんだ。
それは学校内では七不思議の1つであり、「野球が恋人だから」「他の学校に彼女がいる」「女嫌い(男好き?)」果ては「松本先輩と争って、振られた木本先輩のことが未だに諦められないから」等々無責任な噂が飛び交ったが、真相は誰にもわからなかった。
「それにさ。」
「それに?」
「受験生だから。」
「悠・・・。」
「夏休みの間も、考えたんだけど、今の私達が、1番に考えなきゃならないのは、やっぱりそれだと思う。それに所詮は叶わぬ片思いなんだし、そんなのに思い悩んだり、振り回されてる余裕は今の私達にはないんだよ。」
「そうか、そうなのかなぁ。」
笑顔を浮かべて、キッパリ言い切った私を由夏は見つめる。
「悠がそれでいいんなら、私には何も言えないし、悠が言ってることが間違ってる、って言い切る自信もないよ。でも・・・。」
「でも?」
「・・・ううん、何でもない。そうだよね、今は受験、だよね~。」
そう言って、私に笑顔を返してくれた由夏。
「そう、今日からまた頑張らないとね。」
「帰ろうか。」
肩を並べて歩き出しながら、でも私は実は気になってたんだ。
(由夏は、本当は何を言いたかったんだろう。)
って。
教室を出た後、興奮気味の由夏の横で、私はやっぱり言葉少なだ。
「うん・・・。」
「ねぇ何なの、悠。まさか冷めちゃったの?」
「ううん、そんなことないよ。」
「じゃぁ、ホントに何なの?おかしいよ、今日の悠は。」
私の先輩に対する思いを知り過ぎるほど知っている由夏は、不思議そうに聞いてくる。
「だってさ今日、初めてあんな至近距離で先輩見たんだよ。もうカッコよ過ぎて、見とれちゃったよ。とても私なんかの手が届くような人じゃない。」
白鳥徹先輩は沖田くんの前の明協のエ-ス。1年の時からマウンドに立ち、それまでは県大会でも良くてベスト4止まりだった明協を初めて甲子園に導いたんだ。そればかりか、明協はなんとその夏の大会で全国制覇を成し遂げる。
以降ウチの高校は、5季連続の甲子園出場を果たしたばかりか、夏の大会と春の選抜で2度ずつの優勝、唯一優勝を逃した2年生の夏の大会もベスト8進出と、まさに高校球界の王者として君臨することになった。
その中心にいた白鳥先輩は、4番でキャプテンだった松本省吾先輩と2人で、私達女子生徒の人気を二分してると言っても決して過言じゃなかった。
そんな白鳥先輩に私はずっと憧れてきた。明協を受験したのも、それが全ての理由ではなかったけど、先輩と同じ学校に通いたかったからだ。
由夏と仲良くなったのも、野球がきっかけ。白鳥先輩派の私に対して、由夏は松本先輩派だったから、ライバル(?)じゃなかったのもよかったみたい。
だけど私達はずっと、遠くから先輩達に憧れ、応援することしか出来なかった。学年も違うし、接点なんかないし、告白するなんてとんでもない。
逆に先輩達が目を付けてくれるくらいの容姿でも持ってればよかったけど、そんなの、ないものねだり。
あっ、由夏は美人だし、スタイルもいいし、性格もいいから、何の取り柄もない私よりはチャンスはあったはずなんだけど、松本先輩には木本みどり先輩という才色兼備の名マネージャーさんがピッタリ傍にいて、由夏達に付け入るスキなんて全然なかったんだ、残念。
一方の白鳥先輩には彼女はいなかった、らしい。少なくても校内の女子の中には、そのような存在は見当たらなかった。だから私にはとても出来なかったけど、先輩にアタックした子はそれこそ何人もいた。
でも誰1人、先輩のハ-トを射止めることは出来なかった。一世一代の勇気を振り絞って、告白する女の子達に対して、先輩はいつも、マウンドにいる時とは別人のような柔和な表情で、しかし
「ありがとう、だけど今は誰とも付き合うつもりないんだ。ごめんね。」
という言葉で、決して彼女達の慕いを受け入れることはなかったんだ。
それは学校内では七不思議の1つであり、「野球が恋人だから」「他の学校に彼女がいる」「女嫌い(男好き?)」果ては「松本先輩と争って、振られた木本先輩のことが未だに諦められないから」等々無責任な噂が飛び交ったが、真相は誰にもわからなかった。
「それにさ。」
「それに?」
「受験生だから。」
「悠・・・。」
「夏休みの間も、考えたんだけど、今の私達が、1番に考えなきゃならないのは、やっぱりそれだと思う。それに所詮は叶わぬ片思いなんだし、そんなのに思い悩んだり、振り回されてる余裕は今の私達にはないんだよ。」
「そうか、そうなのかなぁ。」
笑顔を浮かべて、キッパリ言い切った私を由夏は見つめる。
「悠がそれでいいんなら、私には何も言えないし、悠が言ってることが間違ってる、って言い切る自信もないよ。でも・・・。」
「でも?」
「・・・ううん、何でもない。そうだよね、今は受験、だよね~。」
そう言って、私に笑顔を返してくれた由夏。
「そう、今日からまた頑張らないとね。」
「帰ろうか。」
肩を並べて歩き出しながら、でも私は実は気になってたんだ。
(由夏は、本当は何を言いたかったんだろう。)
って。