Some Day ~夢に向かって~
なんて、言葉を掛けたらいいのか、あの時、私にはわからなかった。だから結局、私は先輩に何も言えないまま、サヨナラしてしまった。


今日は土曜日、学校は休みだけど、予備校はある。朝起きた私は、すぐに先輩にメ-ルを打った。


『おはようございます。突然ですけど、今日予備校始まる前、少しお話出来ませんか?』


昨日何も言えなかった自分が不甲斐なくて、思わず打ってしまったメ-ル。返事はすぐには来なかった。私はベッドを抜け出すと、下に降りて行った。


洗面、朝食と朝のルーチンを終えて、部屋に戻ると、返事はない。まだ寝てるのかな、なんて思いながら勉強を始めた。そして返信が来たのは、11時に近い頃だった。


『おはよう。メ-ルすぐに気づかなくてゴメン。実は今、グラウンドに来てるんだ。午前中には上がるから、もしよかったら、来ないか?』


えっ、グラウンドに?意外な返事だったが、私は着替えて、行ってみることにした。


着いたのは11時半過ぎ。私自身随分久しぶりに、練習を見に来たんだけど、ギャラリ-は以前に比べて、大分少なくなっていた。


(あっ、いた。)


先輩の姿はすぐ見つかった、なんとバッタ-ボックスに立っている、対するピッチャ-の背番号は1。先輩、沖田くんの後を継いだエ-スピッチャ-だ。


エ-スが投げ込んで来る投球を、鋭い打球ではじき返す先輩。先輩は実は打者としても強打者なんだ。


(かっこいい・・・。)


久々に見るユニホ-ム姿、ピッチャ-の投球を待つ時のキリッとした横顔。私は、ただただ見惚れてしまっていた。


何球、打ったんだろう。最後に先輩の放った打球がレフトフェンスを越えて行くと、その打球を見届けたピッチャ-が帽子を取ると、マウンドから、先輩に頭を下げた。


「白鳥先輩、ありがとうございました。参りました。」


「バッタ-でも、充分いけるんじゃないか。」


と声を掛けるのは居郷奨監督。


「練習のお邪魔しました。ありがとうございました。」


そんな彼らに自分も帽子を取って、頭を下げて、バッタ-ボックスを出た先輩は、私の姿を認めると笑顔になった。
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