Some Day ~夢に向かって~
教室に戻ると、加瀬くんの姿はなかった。なんとなく、ホッとしていると、由夏が近づいて来た。


「何だったの?加瀬くんの話。」


「うん、大した話じゃなかったよ。」


本当は大した話だったし、大したことになりかけたんだけど、正直に話して、由夏の暴走を呼んでも困るので、とりあえず作り笑顔で取り繕う。


目の端に塚原くんが入って来たのが見えた。途中まで一緒に戻って来たんだけど、用があるからって、どっか行っちゃった塚原くん。たぶん、一緒に教室まで来ると面倒なことになるかもって、気を遣ってくれたんだと思う。


塚原くんには本当に感謝なんだけど、でもあの時、なんで塚原くんはあの場所にいたんだろう?由夏が頼んでくれたのかと思ったんだけど、そんな様子じゃないし・・・。


「水木。」


そんなことを考えている私に、先輩から声が掛かる。


「はい。」


「さっき、家から電話かかって来てさ、なんか急いで帰って来いって言うから、急遽で悪いんだけど、今日は勉強会なしにしてよ。」


「はい、わかりました。」


「俺が頼んでることなのに、ごめんな。またよろしく。」


すまなそうに、そう言った先輩は、でもすぐ他の人と話し始めてしまう。


私があんな目に遭いかけたのに、先輩は何にも気づかない。当たり前と言えば、当たり前なんだけど、もう少し私に関心払ってくれたらな・・・。


『水木さんは先輩の何なんだよ。』


加瀬くんの言葉も、甦って来て、なんかモヤついた気持ちになってしまう・・・。


結局、その後も、先輩との会話はほとんどなく、終礼のSHRが終わると、また明日と言い残して、先輩は帰って行った。


なんでモヤついてるのか、自分でもよくわからないまま、教室を出た私は駐輪場に向かった。前かごに鞄を放り込んで、自転車を出そうとしてると後ろから声がした。


「水木さん。」


私は思わず身体を固くする。だってその声は・・・。恐る恐る振り返った私の視界に入ったのはやっぱり・・・。


「そうだよな、そういう反応されちゃうよな。」


俯き加減に立っていた加瀬くんは、私に頭を下げる。


「さっきはホントにゴメン。あんなつもりじゃなかったのに・・・でも・・・本当にゴメン。」


「・・・。」


「こんなこと言う資格、もうないのはわかってる。でも・・・俺本気だから。水木さんのことが好きだ、そのことは、誰にも負けない自信がある。」


「・・・。」


「あんなことする男の言葉なんか、信じられないって言うなら、それでもいい。だから、ちょっとだけでもいいから、俺の事、考えてみて下さい。」


そう言って、もう1度私に頭を下げると、加瀬くんは走り去って行ってしまう。そんな加瀬くんに、なに1つ掛ける言葉が見つからなかった私は、その後ろ姿を黙って見送るだけだった。
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