Some Day ~夢に向かって~
俺をお供にやって来た岩武の言い草を聞いた時には、さすがにゴ-さんも一瞬、目を丸くしていたが、次には吹き出していた。


そして、「わかった、校長に話だけはしてやるよ」と約束してくれたゴ-さんに俺達は一礼する。


教室からの帰り道、岩武が「先輩のおかげです、ありがとうございました」と言うから、別に俺は付いて行っただけだし、君の希望通りになるって決まったわけでもないんだから、って答えたんだけど、「ううん、先輩が一緒に来てくれなかったら、私さすがに先生に言えなかったですから」って嬉しそうに言ってくれた。


ちょっと勝気なところはあるけど、岩武もいい子だよなぁ。水木とはいいコンビだなと思う。本当に嬉しそうな岩武の様子に、なんか俺までほっこりした気持ちになってしまった。


岩武達が、熱心に練習を見に来てくれてたことは、最近みどりから聞いて知った。岩武さんは松本くん目当てだったから、いつもヒヤヒヤしてたけど、なんてみどりは言ってたけど、よく言うよ。ホントは岩武のことなんか歯牙にもかけてなかったくせに。


あの日、珍しくおふくろから、授業終わったら、早く帰って来いなんて電話が掛かって来るから、何事かと急いで帰ってみると、みどりが来ていて


「家庭教師、みどりちゃんにお願いしたから。文句ないでしょ。」


なんて言われたから、その手があったかと思わず唸ってしまった。


野球のこととなれば、何事にも熱心なくせに、学生の本分たる勉学には一向に熱を入れようとしない俺達同期の部員達の為に、みどりは定期試験の前に、いつも勉強会を開いてくれた。場所は俺の家を提供して、みどりともう1人、部員の中では唯一ちゃんと勉強に取り組んでいた一塁手の久保創が先生で、俺や松本達、残りの連中が極めて出来の悪い生徒。


とにもかくにも俺達が、落第もせずに来られたのは間違いなく、みどりと創、両先生のおかげだ。


部活の外でも、こんな手の掛かる仲間の面倒を見ながら、難関W大政経学部にサラリと現役合格してしまう明晰な頭脳を持ち、かつ俺の頭の程度をほぼ正確に把握してくれている彼女以上に、今の俺が求める家庭教師がいるだろうか。まさに最強の家庭教師だ。


こうして、みどりは週2~3回、家庭教師として俺と高校入学後、すっかり遊び惚けている妹の唯の面倒を一緒に見てくれることになった。


予備校も結局続けることにした俺は、改めて勉強三昧の日々を送っていた。
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