Some Day ~夢に向かって~
だけど、それと時を同じくして、俺は水木と絶交状態に陥った。理由はわからない、俺が彼女を怒らせる何かをしでかしたらしいのだが、正直心当たりがない。


何とか、コミュニケーションを取ろうと努力はしてみたのだが、全く取り付く島もない。岩武に尋ねても、さぁと首をかしげるばかり。みどりにまで相談してしまったが


「悪いけど、私は恋の家庭教師まで引き受けてないから。」


と軽く一蹴されてしまった。とりあえず、今は勉強に勤しめということなのだろうと、自分に言い聞かせている。


「先輩。」


そんなことを考えていると、後ろから声がする。振り向くとそこに立っていたのは桜井加奈。実は俺は彼女に呼び出されて、今この屋上に立っている。


「お呼びだてしたのに、遅れてすみません。」


「いや。ちょっと考え事をしたくて、早めに来てただけだから。」


今はすっかり雲散霧消してしまったが、桜井は一時期、俺を取り巻いていた女子グル-プの1人だった。そんな彼女からの呼び出し、俺は半ばその用件を予期しながら、ここに来た。


「悠ちゃんとすっかり話さなくなっちゃったんですね。」


俺の前に来ると、桜井は意外な事を口にした。そう言えば、かつての取り巻き女子達は、水木を敵視していたようだが、桜井はそのグル-プを離れて、いつの間にか水木、岩武と3人組になっていた。


「悠ちゃんは勘違いしてます。」


「勘違い?」


「悠ちゃんは先輩の心の中に、ある女の人がいるって思いこんでます。」


「えっ?」


桜井の言ってることが、あまりにも意外で、俺は戸惑うばかりだ。


「でも違いますよね。」


桜井は笑みを浮かべながら続ける。


「先輩の心の中にいる人は、他の誰でもない。水木悠、その人ですもんね。」


「桜井・・・。」


「先輩の悠ちゃんを見る目と、私達を見る目は全然違いますから。」


「・・・。」


「自分のことって、わからないものなんですね。私にとっては、好都合ですけど。」


桜井は真っすぐ、俺を見つめたままだ。


「私、先輩の彼女に立候補します。」


俺が水木が好きなことに気付きながらも、告白して来た桜井。


「先輩は、いずれお父様の会社を継がれるんですよね?」


「?!」


「だとしたら、悠ちゃんより私の方が、将来先輩のパ-トナ-として、お役に立てる可能性が高いと思います。」


そう言い切った桜井の表情が、やけに自信に満ち溢れているように見えた・・・。
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