Some Day ~夢に向かって~
水木にコクり損なってから、そろそろ1ヶ月。秋の日が落ちるのはますます早くなっている。ほとんどの生徒は下校し、松本にまとわりついていたマスコミも引き上げて行き、学校はちょっと前の喧騒が噓のように、静寂に包まれている。


そして今、俺はあの時のようにグラウンドに立っている。早く帰って勉強しなきゃいけないんだろうけど、今日は約束がある。


「待たせたな。」


その待ち人は、そう俺に声を掛けると、近づいて来た。みんながいなくなるまで、校長室あたりでやり過ごしてたんだろう。有名人はつらいな。


「人の名前を出すなら、事前に許可取ってくれ。ビックリするだろう。」


冗談半分で抗議する俺に、松本は照れ臭そうな笑みを浮かべる。


「スマン。あれ、アドリブだから。」


「マジか?」


「俺だって、あれだけの人間の前で、話をさせられるんだ。準備くらいするさ。でもいざ、あの壇上に立ったら、全部吹っ飛んだ。お前の顔が見えたから。」


「なんで?」


「後輩達の前で、多少カッコ付けたり、話を盛って、ちょっと感動的に持ってこうとか思ってたんだよ。でもお前の顔見たら、ダメだ、こいつには全部知られてるって。」


そう言いながら、苦笑いを浮かべる松本。


「じゃ、あれ本当にアドリブなのか?」


「まぁ、ほぼそれに近い。だから、文脈メチャクチャだったろ。」


「だとしたら、お前凄いな。俺、結構感動したんだけど。」


「ウソつけ。」


片や制服、片やス-ツ、傍から見たら、なんともアンバランスに見えるだろうけど、俺達はすっかりいつもの俺達に戻っていた。


「それにウソも言っちゃったし。心はいつも繋がってるなんて・・・あの時、お前が戻って来てくれなかったら、俺達はバラバラに・・・。」


「なってねぇよ。」


俺は松本の言葉を遮った。


「なるわけねぇじゃん、絶対に。」


「白鳥・・・。」


「その証拠になってねぇじゃん。」


そう言うと俺は松本に笑って見せた。
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