幼馴染みと、恋とか愛とか



「約束が違いませんか、三橋さん」


てっきりエレベーターに乗って最上階の社員食堂へ行くもんだと思ってたけど、首藤さんは私を真っ直ぐ自販機コーナーに連れて行き、壁に手を付くと逃げ道を遮るように立ちはだかった。

そのせいでこっちは、背中を壁に付けるしかなくなり……。


「お弁当を作るのは社長と相談すると言ってましたよね。作るのはやめた方がいい、と僕がこの間注意したのに」


あの指摘を注意と称する時点で首藤さんの考えが歪んでる。
私は何も言い出せなくて、黙って目を彼に向けるのも嫌だから項垂れてた。


「何とか言いませんか」


言っても聞く耳なんて持ちそうもないのに囁き、壁に付いた手とは逆の手で、私の肩をポンと叩いた。


「三橋さん」


顔を覗くようにしてくる彼が恐ろしい。
あの待ち伏せしてた人や支店長みたいに思えて、ガクガクと膝が揺れそうになった。


「お…お弁当は…し、社長が作って欲しいと言って…」


そう言いながら自分でも彼に作ってあげたかった…と確信していた。
紫苑の体も心配だったけど、何よりも紫苑に恩返しする気持ちがあったから。


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