幼馴染みと、恋とか愛とか
父は彼の右手をガシッと握り、救世主とばかりに紫苑を褒め称えた。


「あのねー」


私の声なんて二人の耳には届く様子もない。
どうしてこんなことになるの!?と思い、ジロッと紫苑の顔を睨み付けた。

なのに、当の本人は素知らぬ顔つきで「先方には自分の方からも連絡を入れておきます」という有り様で。


(私まだ働くとも言ってないんですけど!?)


苦々しい思いを胸にしたままでいるのに、両親は「宜しく頼む」と彼に一任してしまう。

私は愕然としたままインスタントコーヒーを飲み干す紫苑を見つめ、彼はコーヒーを飲み込んで立ち上がると、ニコッと好青年風なスマイルを見せた。


「どうもご馳走様でした」


安いインスタントコーヒーのお礼を述べる紫苑を、両親はまるで将軍様を見送る村人みたいに玄関先まで送る。


「またいらっしゃいね」

「気をつけてな」


笑顔で送り出してるのが分かる。
それを聞きながら私は釈然としないでいて、(どういう事!?)と疑問を自分に投げ掛けていた。


テーブルの上には紫苑が置いていったメモ紙がある。
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