幼馴染みと、恋とか愛とか
「慌てて来たから様子を見に行ったの。そしたらさっきの彼が、まるで貴方が死んだみたいに抱き抱えてオロオロしていて。

……余程大事なんだなって思った。いいわね。あんな素敵な人にそこまで心配されて」


恋人?と問われるからビックリして。
慌てて「単なる幼馴染みです」と答えた。

医師は「それにしては相当な心配ぶりだった」と笑い、それ以上は何も言わずに私のことを見ていた。


そこへ父に連絡をした母が戻って来て、間もなくして私は「起き上がっても大丈夫」と許可を頂き、退社することにした。


「帰ります」と連絡を入れると、紫苑は「分かった」と答え、「何かあったら言ってこい」と付け加えた。



「はい…」


他人行儀なまま返事をして受話器を置く。
だけど、頭の中ではグルグルと複雑な思いが湧いてくる。


このまま紫苑のオフィスで働き続けてもいいのか。
そもそも、働き続けていける自信があるのか。


倒れる前のことを思い出すと怖さで再び身が震える。
紫苑が助けに来てくれたけど、恐怖はより一層私の中に埋もれた気がする。


ぎゅっと体を抱くようにして震えを堪えた。
隣にいる母に、それを悟られないようにしていた___。

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