幼馴染みと、恋とか愛とか
瞼が伏せられて息がかかる。
唇に触れようとする紫苑のことを視界に入れながら、急に我に戻った。



「…っいや!」


ドン!と思いきり両手で紫苑の胸板を突いた。
同時に震えが始まって、指先も手足も、全身がガタガタ震えてる。



「萌音……」


紫苑が紫苑に見えなくて。
あの時の支店長やあの人みたいに見えて。



「……出てって」


ガタガタと震える指先で布団を手繰り寄せる。
目を見張ってる紫苑を見るのも怖くなり、ぐっと手を握りしめて頭から被った。



「出てって!もう二度と来ないで!」


声を上げて叫んだからか、紫苑は相当に驚き……


「一体…」


何がどうしたのかと言いたげにしてたけど、コンコンとドアをノックする音がして。


「萌音?紫苑君?」


開けるわよ、と声がする。
カチャとドアを開く音が聞こえ、心配そうな母の声が響いた。


「どうかしたの?大きな声が聞こえたけど」


紫苑は、母にどう説明をしたらいいのか分からないみたいで、「いえ、あの…」と言い淀んでしまう。

私は布団を被ったままブルブルと震えてて、声を出すことも出来ない。


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