幼馴染みと、恋とか愛とか
「萌音、俺は…」

「青だよ。紫苑」


目線を向けずに教えると仕様がなさそうにアクセルを踏み込む。
動き出す車窓に目を移すと、また涙が出てきそうになって俯いた。


そのまま暫く喋らなかった。

紫苑は、昨夜の話をしたくても出来ない雰囲気を感じたらしい。
自分からも話しかけてこず、車内の空気はずぅーんと重いまま病院に着いて、そこからは一人で診察室や検査室に移動したからホッとした。



幸いなことに検査の結果はどうもなかった。
産業医の先生が心配していた硬膜下血腫も見当たらないと診断を受け、安心して診察室を後にする。

外では紫苑が不安そうな顔つきで座ってて、私はそんな彼に目を向けて少し苦笑した。


「紫苑の方が病人みたいよ。私の代わりに診察室へ入った方が良かったんじゃない?」


結果はどうもなかった、と話すと大袈裟に溜息を吐き、両手で顔を覆う。


「良かった…」


心底そう思ってるような声で言うから、胸がきゅん…と竦んだ。

だけど、そのまま自分から紫苑には近付けなくて。
一メートルくらいの距離を空けたままで、紫苑が長椅子から立ち上がるのを待った。

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