幼馴染みと、恋とか愛とか
紫苑は怒ったように言い返した。
椅子から立ち上がると私を睨み、「悪い冗談って何だよ」と膨れっ面をして見せる。


「俺は本気で…」

「もうそれ以上言わないで!」


ある程度紫苑の行動は想定してたから、私は怯まずに応戦した。


「私は幼馴染みと、恋とか愛とか出来ないと思ってるの。それよりも今大事なのは、仕事の方でしょ。
首藤さんはオフィスには欠かせない人だよね?置いておかなくちゃいけないのは、私よりも彼でしょ!?」


私なら幾らでも仕事を見つけられる。
最初から紫苑に頼ったことが間違ってただけだと言った。

なのに、紫苑は首を縦には振らず、プイッと背中を向けて歩き出す。



「待って!紫苑!」


何処まで強情なんだと腹立たしくなる。
紫苑の怒りも納得は出来るけど、自分のオフィスをもっと大事に思って欲しい。


ロビーに着くと精算の窓口にカルテを差し出し、設えてあるソファに座り込む。
だけど私は紫苑との距離を縮められず、二人分くらいの距離を保ってた。


紫苑の側に行って話すのが怖かった。
また彼を拒絶してしまいそうで、そうする自分を想像するだけで嫌になる。


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