幼馴染みと、恋とか愛とか
紫苑は緊張した顔つきで私のことを心配してる。
こっちはそれに触れて欲しくない気持ちがあり、フルフルと頭を左右に振った。


「関係ないわ」


大ありだけど関係ない。
自分にそう言い聞かせて紫苑を見遣る。

彼は不服そうに私の表情を眺めてたけど、私はそんな彼に怯まず、なんとか自分を保ってこう続けた。


「昨日のことは蒸し返さないで。どうかしてたの、私」


紫苑に過去を知られるのが嫌だ。
同情されたり慰められたり、そういうのも全部イヤ。


私はこれまで通り、単純に紫苑の幼馴染みでいれたらいい。
紫苑がなんと言っても、その関係に恋とか愛とか必要ない。


要するに嫌われたくないんだ。私は。

幼い頃からの私を知ってる紫苑に、変な自分を見せたくない。

もう二度も彼の前で取り乱してるくせに、未だにそういう気持ちが強くて仕様がなかった。


「この退職願、受け取って下さい。私をこのオフィスから解雇して」


代わりに首藤さんの謹慎を解いて。
でないと紫苑が困るでしょ、と思った。


「受け取らねえ」


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