幼馴染みと、恋とか愛とか
(あの頃のことか…)


俺は黙ったまま萌音の様子を観察してた。

萌音は目を伏せるとコーヒーを一口含んだ。
それをゆっくりと喉に流し、続きを話そうとはしないで唇を閉ざしたままでいる。


俺はその様子が何だか変だと感じた。
そんなことくらいで、あそこまで怯えるものだろうか…と考えてたんだ。



「萌音」


声をかけると大袈裟にビクつく。
絶対、他にも何かがあった筈だとその瞬間に感じ取った。


「それから?」


俺は萌音を見据えたままで訊いた。
何でもいいから話して欲しいと心の底から願ってた。


萌音から出された『退職願』を受け取ってまでも、俺は彼女のことを知りたいと思っていた。

自分が仕事にかまけてた日々、萌音に起こった出来事を全て把握しておきたい気分だった。


萌音は俺のことを視界に入れると悲しそうな目をした。
泣き出しそうな雰囲気で、同時に嫌な予感が走った。


「……三ヶ月決算が過ぎた頃、支店長が変わったの。
新しい支店長はいい人で、私が食事を摂れないでいることに気づいてくれた……。


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