幼馴染みと、恋とか愛とか
悩み事でもあるのかと訊いてくれたから、私はその男性客に気に入られ過ぎて困ってると相談した。
そして、窓口から内勤の業務に配置換えをしてくれたんだけど……」


ぎゅっと唇を噛むのには理由があるのか。
萌音の表情は冴えなかった。


「変えて貰えてホッとしたのも束の間、その人が今度は退勤時間になると外で待ち伏せするようになって」


「えっ!」


「別に追いかけてくるとかそういうことはしないの。ただ、名前を呼んで足を止めさせて、時々『君を独占したいんです』と気色の悪い言葉を吐くの。
私はそれが本当に気持ち悪くて。
ニヤニヤと笑う顔を見るのも恐ろしくてゾッとした。

だけど、それ以外に実害は何もないから、誰にも何も言えなかったの……」



俺に言えば…


そう口に仕掛けたが、言える筈もない。
俺はその頃、起業しようと必死になってて、萌音どころではなかったんだ。



申し訳ない気持ちで萌音を見遣った。
目頭には涙が溜まりかけてて、ぎゅっと胸の奥が痛んだ。


「半年決算のあった日、いつもより帰りが遅くなって…」


萌音は話しだすと急に止める。

< 158 / 221 >

この作品をシェア

pagetop