幼馴染みと、恋とか愛とか
よく見ると唇が微かに震えていて、指の先も小刻みに揺れている。

明らかにそれまでの様子とは少し違った。
俺は萌音が隠してることの事実が、その日にあるんだ…と確信した。


「萌音」


もう話さなくてもいい、と言ってやりたい気持ちがあった。しかし、萌音は俺を見て言いだした。


「いつまでも退社しない私を気遣って、支店長が中に戻っておいでと言ってくれたの。
優しい紳士だと思ってたから、私は正直嬉しかった。

お茶を飲んで話そうと言われて、あわよくば彼に送って貰えたらラッキーだと感じた。

なのに、あの人は……」


指先の震えは段々と大きくなって、それが全身に広がっていく。
萌音の顔色は真っ青で、いつパニックを起こしてもおかしくないように見えた。


「萌音っ!」


寄って行ったが萌音は唇を動かした。


「私をいきなり抱き締めて、体を触って言ったの。

『隙があり過ぎるよ』って。『だから、変な男にもつけ入れられるんだ』って。

自分が一番変なことしてるのに、私が悪い様な言い方をして。
やめてと言うのに離そうともしないで、荒い息遣いをしながら胸を撫で回して…」


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