幼馴染みと、恋とか愛とか
「やめろっ!」


俺が近付いてそう言うと、萌音はボロボロと泣き出した。
向けられてくる眼差しは真っ赤で、怯える様に大きく見開かれていた。


「もういいんだ。話さなくてもいい」


訊いた俺が馬鹿だった。
まだ二十歳近い萌音が経験した怖さを掘り起こさせる必要なんてなかった。



「し…おん……」


泣きながら名前を呼ぶ萌音は不安そうで、怯えながら俺の顔を見つめてる。
カップからはコーヒーがボチャボチャと溢れ返っていて、それが手を伝って床にシミを作っていた。


俺は何も言わずにその手からカップを取り上げた。
ポケットからハンカチを取り出すと萌音の手に付いたコーヒーを拭き取り、「熱くねえか?」と訊いた。


見たところ皮膚は少し赤くなっていた。けれど、火傷のようではない。
萌音も小さく首を横に振り、そのまま頭を項垂れた。

身体はまだ震えてる。
ハンカチで覆った手もブルブルと小刻みに震えてるままだ。



俺は萌音を抱いてやりたいと思った。
抱き締めて、「大丈夫だ」と言ってやりたい。


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