幼馴染みと、恋とか愛とか
私は幼馴染みの紫苑と、恋とか愛とか、そんなの考えたことはない__。


そう言いたくても言えなかった。 
真剣に見つめる紫苑に嫌われたくないと考えてる時点で、自分が紫苑を好きなんだと分かったから。


振り向くと紫苑の目は不安げに揺れてた。
私が「だけど」と言ってしまったから、その先の言葉が気になるんだ。


私は目を伏せて紫苑の手をじっと見た。
この手の温かさを感じて、可愛がられてた日々を思い起こした。


あの頃は幸せだった。
紫苑のことを誰よりも特別な存在に感じていて、母よりも安心出来る人のように思ってた。


紫苑の親からは「お兄ちゃんだと思って…」と言われてたけど、実際にお兄ちゃんだと思ったことは一度もなくて。

言われれば言われる程、私を助けてくれるスーパーマンみたいな紫苑を、兄だとは思いたくない気持ちが強まっていった。


でも、だからと言って、急には一人の男性とは思えない。
正直まだ怖いし、紫苑の手に守られても、優しく大事に包まれても、その恐怖を一度に拭い去ることなんて無理だから。



「紫苑…」


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