幼馴染みと、恋とか愛とか
「着いたぞ」


そう言って紫苑が車を止めたのは、オフィスと自宅の中間地点に建つマンションの下だ。

朝食を済ませた後、私は紫苑に「数日分の着替えをバッグに詰めて持って来い」と言われ、ぶちぶちと文句をこぼしながらスーツケースに衣類とメイク道具を入れて部屋を出た。

自宅を出る際、父は紫苑の手を握って、「頼むな」と言った。
母も私の両肩に掌を乗せ、「紫苑君の役に立つのよ」と言い渡した。

弟の蓮也は「出戻ってくるなよ」と生意気な言葉を吐き、私は「全部あんたの所為だからね」と言いたくなるのを我慢して車に乗り込んだ。


パワーウインドウを開け、車内からその建物を見上げる。
白亜の城ならぬ白塗りのマンションは、まだ建って間もない様子で綺麗だった。

ポカンとしながら(此処が紫苑の言ってた新居か…)と窺ってると、後ろの運転席から声がした。


「此処は三ヶ月ほど前に購入したんだ。仕事で家に帰るのも遅いし、どうせ寝に帰るだけならオフィスに近い方がいいかと思って」


買ったものの引っ越しをするのが面倒だったらしく、住まずにズルズルと日が過ぎてたそうだ。


< 170 / 221 >

この作品をシェア

pagetop