幼馴染みと、恋とか愛とか
「紫苑」


怖いからやめて、と言うつもりで振り向くと、紫苑は泣きそうな横顔をしてる。
どうして彼が泣きそうなのかが分からずに、私は茫然としてしまった。


「どいつもこいつも、俺の萌音を馬鹿にして!」


叩いていた手を拳にして悔やむ。
私はそんな紫苑に掛ける言葉も思い付かない。


「萌音も萌音だ!」


とばっちりがこっちに向いてきたのかと構えた。
なのに、振り向いた紫苑は腕を伸ばすとぎゅっと私に抱きつく。

そのまま息もし難いくらいにきつく抱き締め、泣きそうな声で「ごめん…」と謝った。


「俺が萌音を見てなかったから、あんなトラウマにいつまでも襲われるんだな」


無力だ…と言うように後悔してる。
そんなことないのに、紫苑が泣いてる……。


私は驚きと切なさで紫苑の背中をそっと撫でさすった。
大きな背中は広くて、子供の頃とはやっぱり違う。

まさかこんな形で紫苑に謝られる日が来るなんて。
何もしてない人が、してる人達に代わって謝っているようで。



ぼろっと涙が溢れ落ちてきた。
紫苑の温もりが胸の奥底にまで届いて、安心だけど切なくて__。


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